ここのリンク先を読み、予め知識を得た後に読むと良いです。特にTc-年度の図は、誠に勝手ながら「大本営」と呼ばせていただいています(悪い意味付けをする意図はありません)。
(1) 銅酸化物高温超伝導体
銅酸化物高温超伝導体は,常圧下では最も高い超伝導臨界温度(Tc)を持つ物質のグループである.榊原は銅酸化物同士の相対的なTcの違いに着目し研究を続けている.物質依存性を理解するためには,フェルミ面を構成する3dx2-y2軌道だけでなく,それに混成している3dz2軌道の効果が重要である事が研究により判明した.研究の基本方針として,第一原理バンド計算の結果を再現するような低エネルギー模型を構築し,これを用いた多体効果のシミュレーションを行っている.シミュレーションには揺らぎ交換近似法(FLEX)に基づいた弱相関描像からの摂動計算を主に用いるが,近年は学外共同研究により,変分モンテカルロ法(VMC)を用いた研究も行っている.また銅酸化物の超伝導において重要な,電子間相互作用の値も第一原理的に導いている.
(2) 無限層構造を持つニッケル酸化物薄膜超伝導体
2019年に新たに発見されたニッケル酸化物は,銅酸化物超伝導体とよく似た結晶構造・電子構造を持っているため,科学的興味を集めている.榊原は第一原理計算に基づく最局在ワニエ軌道法(MLWF),及び制限乱雑位相法(cRPA)によってニッケル酸化物と銅酸化物の電子状態の違いを調べ,ニッケル酸化物のTcが銅酸化物に比べ低いという実験結果を説明することに成功した.
更に詳しい情報は,大学サイトのプレスリリースを御覧ください(クリック)
(3) 2層構造を持つニッケル酸化物超伝導体
Ruddlesden-Popper構造を持つニッケル酸化物は古くより知られていたが、その中で2層構造を持つLa3Ni2O7 と呼ばれる物質がある。2023年に中国・中山大学のグループは、La3Ni2O7 が高圧下(10~15GPa以上)でTc=80K程度の高温超伝導体になることを報告した。榊原は第一原理バンド計算と揺らぎ交換近似法(FLEX)の組み合わせにより理論的に研究を行った。その結果、超伝導の対形成(クーパー対形成)においては2層の間で働くスピンの揺らぎが重要であることを突き止めた。
詳しい情報は大学サイトのプレスリリースを御覧ください(クリック)
(4) 3層構造を持つニッケル酸化物超伝導体
物質・材料研究機構の高野義彦教授らとの共同研究により、La3Ni2O7の3層型派生物質であるLa4Ni3O10における、超伝導の実現可能性を研究した。実験の結果を待っている間、FLEX近似による理論計算から、incipient bandが増強する超伝導の実現シナリオが判明し、超伝導の可能性を見出していた。後にLa4Ni3O10にでも超伝導が実証されたため、理論計算の信頼性が補強された。
(5) ニッケル酸塩化物の構造予言と超伝導
La3Ni2O7はNi-Oが形成する2層構造が超伝導における核心部分だが、越智氏・榊原らの共同研究により、同様のコア構造を持つSr3Ni2O5Cl2と呼ばれる酸塩化物(oxychloride)を提案した。この物質は、La3Ni2O7において超伝導が実現する高圧構造と同じ対称性を持つ構造が実現することが越智氏の計算により予想され、山根氏らの実験測定によって結晶構造に対する理論予想の正しさが実証された。一方、榊原による計算から予想された超伝導転移はまだ実証されていないため、今後はこの理由を解明することが課題となる。
(6) 無限層ニッケル酸化物超伝導の新展開:過剰ドープの効果
2019年に発見された無限層構造を持つニッケル酸化物薄膜はいわゆるd波超伝導の対称性を持つが、これは適度な量のキャリアを導入した場合である。榊原らはキャリアを過剰にドープすることで、d波相が消失し、s±波超伝導が実現するシナリオを提案している。