投稿先を決める基準について

榊原は低温の物性研究(理論)を行っているので,基本的には

Physical Review B (略称:PRB )

への投稿を目指して研究しています.実際,自身の論文のうち半数がPRBにて出版されています.ただ,普段よりも顕著な成果が得られた場合は

Physical Review Letters (PRL)   【約4ページの長さ制限あり】

Physical Review X (PRX)   【オンラインのみのオープンアクセス.長さ制限なし】

Physical Review Research (PRR)   【同上】

などへの投稿を試みます。PRLは物理学の専門誌としては歴史も伝統もあり、採択基準の高さも最高級です。榊原は幸いにして過去に2本の論文をPRLにて出版し、現在3本目の採択に挑戦中ですが、残念ながらPRX(もはや,PRLよりもインパクトファクターは高い)へは採択されたことはありません。PRL、PRXで出版できれば最高ですが、まずはPRRの採択を増やしていきたいです。スタンド中段や場外に運ぶホームラン(PRL, PRX)がもっとも清々しいですが、スタンドギリギリのホームランやフェンス直撃の2塁打(PRR)、あるいはヒット(PRB)の数が多いことがまず大事だからです。"Physical Review"の冠がついた論文はアメリカ物理学会(APS)が発行していますが、これらは最も伝統と権威のある物理系専門誌グループの一つです。実際、単なるヒットと呼ぶには極めて失礼なくらい、歴史的に重要な論文も数多く出版されています(※1)。アメリカ物理学会の学術誌ですので英語を操る世界中の研究者が読者になります(※2)。

榊原の中でPRBと双璧を成すメジャーな投稿先は、

Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)

です。編集部が国内にある論文誌ですが、国際的に開かれた物理論議のために英語で出版されています。過去の日本人研究者のレベルの高さを反映するかのように、数多くの重要論文が出版されています。本来は物理系全般をカバーする専門誌の「はず」ですが、頭数の上では物性分野からの出版が多いとされています。編集部とのやり取りが日本語で済むことや、国内なので出版費用のやり取り(※3)もAPSよりは簡単であるというメリットがあります。多くの国際誌の場合、悲観的な予測では初投稿から出版まで(別雑誌への転送まで含めると)6ヶ月以上かかることもザラですが、JPSJは編集部の尽力により短い期間で済むことも多いので、ややせっかちな榊原はJPSJも好きです。JPSJの査読者(※4)の審美眼は高く、査読者一人ひとりの採択基準は決して低くないですが、1論文あたり査読者は大抵1人なので、普通に3人くらいの査読者を要求するPRBなどに比べたら採択されやすい傾向にあると思います(※5)。PRBよりは「少しだけ楽(そこまで楽でもない;クリーンヒットとコースヒットくらいの違いでしかない)」ということから「今は研究価値を他人に説得しにくいが、将来的には価値が出そうな、挑戦的な論文」をJPSJに回すことが多いです。学生さんとの共同研究などもJPSJへの投稿を第一候補に考えます。学生さんご本人が筆頭著者だと最高なのですが、現実にはそれほどの研究を行うのは簡単ではないですから、数人の成果をまとめて一つの論文にして、それが最終的に出版できれば十分と言えるでしょう(誰を筆頭にするか?は問題ですが)。

現実的には,今後も榊原が筆頭著者の理論論文はPRL, PRXまでが最高水準だと予想しますが,これらはいわゆる物理の「専門誌」です。掲載難易度で比べた場合、それらの上位に「総合誌」であるNature、Scienceが位置します。特に実験系物理学者との共著でなら、発見のインパクトが非常に大きい場合もあるので、Natureなどのチャンスが訪れるかもしれません。Scienceはアメリカの雑誌ですが、Natureはイギリスの雑誌です査読形態が特殊なScientific Reportを除き,欧州系の学術誌(New Journal of PhysicsやPhysicaなど)には原著論文を投稿した経験がありません  学外の研究者との共著論文ですが、つい最近、欧州系の本格的な査読付き論文に掲載されました(※6)。今後は主著者でも欧州系も考えていきたいです。


※1 私のコアな専門性ではこれとか.

※2 逆に言えば,割合としては,一つひとつの論文はほとんど読まれていないとも言える.

※3 近年は著者側が「公開料」を払い,論文をオープンアクセス(無料閲覧)にすることが多いです.榊原もしばしオープンアクセスを選択しますが,海外送金は所属大学の事務体制や「財源の種類」によっては困難を生じる場合があります.

※4 査読者は多くの場合日本人であると考えられていますが,使用言語は英語日本語どちらの可能性もあります.

※5 榊原は博士課程3年生の頃からPRB,PRLの査読者を担当しており,以来ほぼ毎月のように査読依頼が来ます(誇りであると同時に忙しいのでほとんど泣き言でもあります).物理学の場合「査読者は必ずしも分野の重鎮や権威ではない」「査読者だからといって立場上偉いわけでもない」ということです.学生を当たり前のように駆り出すくらいですから,APS系は雑誌全体としても,明らかに査読過多ではないか?と内心思っています.他にはPhysicaなどのElsevier系の論文や、Europhysics Lettersなどの査読を任される事がありました

※6 プロシーディングスは学生時代から欧州系も原著出版が数本あります.